キラーアプリはファクスソフト・その1

 90年代初頭、乾電池で動く小型ワープロと携帯電話を持って事件や事故の現場に駆けつけ、ワープロで書いた原稿を会社に送稿するということが可能になった。しかし問題がひとつあった。ファクスだ。送った記事にデスクが手を入れ、出稿された原稿がモニターの形で出力される。新聞記事の原稿には、締め切りぎりぎりまで何度も何度も朱が入る。また、輪転機が回る直前にはゲラが出る。朱が入るたびにモニターでチェックし、ゲラが出れば見出しや記事の扱いも点検しなければならない。「現場の記者には携帯型のファクスが必要だ」と私は思った。が、そうしたチェックは電話を使った口頭でのやりとりででも可能だし、会社側は携帯型ファクスまで導入する気はない。
 私は、仕事熱心だから*1、どうしてもNTTが発売していた(今でも売っているのかなあ?)携帯型ファクス機が欲しくなった。携帯電話をつなぎ受信したファクス文書を感熱紙に印刷できるという、完璧な仕事を目指す私*2にうってつけの物ではないか!価格は、5万円弱…絶句。手が出ない。ところが、ある日いつものように秋葉原をぶらぶらしていて、大手家電専門店の店頭で2万円で売っている携帯ファクスを見つけた!即、買い。ファクスの送受信テストを入念に済ませて取材現場に携行した。アルバイトの学生に、「ゲラのファクスは、僕の携帯電話の番号に送ってくれる?」と伝えると、学生君は「えっ?携帯でファクスを受信できるんすか?」と問い返してくる。「ふふふ、できるのさ」と余裕を見せる私。おもむろに鞄から携帯ファクス機を出して携帯電話をつなぐ。待つこと数分。おお!事件現場で会社からのファクスが受けられた!完璧だ……。数時間後、バッテリーが切れた携帯型ファクスは、ただの重たい荷物でしかなかった。受信できたファクスはA4用紙にして数枚程度だったと思う。なんであんなに電池の持ちが悪かったんだ、あの機械は?あるいは不良品だったのだろうか?(続く)

*1:本当はそうではなく新しい機械が欲しいだけ

*2:違う、ただ機械が欲しいだけ