京都・北白川

 新企画として、これまでに住んだことのある街、訪れたことのある街について書いてみます。一回目は大学一年生のころに住んだ京都の北白川。
 少なくとも私が学生だった80年代までは下宿街だった。学生向けアパート、マンションではなく、「下宿」。民家の一部屋を学生用に貸している家がたくさんあった。私が借りたのは、「北白川バッティングセンター」近くの一軒家の2階の一室だった。四畳半の部屋で、一軒家の間借りだから、トイレや流しは部屋にはない。でも、朝食くらいなら、電熱器で卵を焼き、オーブントースターでパンの耳を焼いて作った。当時パン屋に行けば食パンの両端を落としたパンの耳が袋一杯につまって30円で売っていた。これにチーズを乗せてオーブントースターで焼くと香ばしいチーズトーストになった。
 北白川は当時からおしゃれな街だった。同時に、学生向けの安い居酒屋や定食屋がたくさんあった。そうした居酒屋のひとつで、アルバイトをしたこともある。焼酎が一杯150円。毎晩勉強を済ませると千円札を持ってやってきて、冷や奴と焼酎を飲んで帰る学生もいた。下宿の近くには今や全国展開しているラーメン屋「天下一品」の本店があった。阪神の江夏を尊敬しているという頑固者のオヤジがやっている「吾作」という小さなやきとり屋があった。夫婦で切り盛りしている、しかし味は高級店にも負けないプレハブの中華料理屋「広来」があった。下宿には数学専攻と考古学専攻の先輩がいて、毎晩遅くまで勉強していた。
 古き良き時代の雰囲気を持った学生と、その学生をかわいがってくれる人たちがいた街だった。飲んだくれ学生だった私はたった一年でこの街を離れた(正直に言うと、しょっちゅう下宿で飲んで、しばしば騒いだおかげで下宿を追い出された^^;)。
 北白川伊織町。ほろ苦い、でも一生忘れることのできない思い出が詰まった街だ。